キーワード:き電線、ビーム、がいし、経年劣化、電圧、電流、抵抗、高抵抗地絡
高崎線籠原駅の火災事故の概要
昨日、高崎線籠原駅構内で火災事故が発生し、周辺にある信号機器が焼損してしまったため17日始発まで運転見合わせとなっているようです。
現地をよく知らないのでイメージになりますが、下の絵のようにき電線はビーム上のやぐらにがいしを介して吊られているのが通常の状態です。
しかし経年劣化による腐食によってがいしが破損してしまい引っこ抜けてしまったので、吊られていたき電線は垂れ下がって、ビームの上に引っかかった状態となってしまいました。
き電線には高い電圧がかかっているので、それがビームに接触してしまうことによって、き電線⇒ビーム⇒コンクリート柱⇒大地⇒レールという経路で想定外の電流が流れてしまい、その経路の近傍にあったものが燃えてしまったというのがおおまかな概要です。
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オームの法則
ここでどうしても言っておきたいのが、『1,500ボルトの高圧電流』という表現は間違っているということです。
これは中学校の理科で習うレベルの基本的なことなのですが、ボルトというのは『電圧』の単位で、電流の単位は『アンペア』なので、『1,500ボルトの電流』はおかしい。
電気に関するニュース記事などを見ると、なぜか大概この間違った表現が使われています。
電気現象は目に見えませんが、電流は電気の流れのことを意味しているので、電圧よりも電流の方がなんとなく概念的にイメージがしやすいことと、電池やコンセント、海外旅行で使う変圧器などにボルトの表示があるため、アンペアよりもボルトの方が親しみがあることが原因ではないかと思います。
ということでまずは電流、電圧、抵抗について整理しておきましょう。
電圧 E(V・ボルト)、電流 I(A・アンペア)、抵抗 R(Ω・オーム)とすると、これらの間には次の関係があります。
E = R × I
これが有名なオームの法則です。
この式をI = E ÷ Rと書き換えると、同じ電圧がかかっているところに低い抵抗値の物質を接続すると大電流が流れますが、逆に高い抵抗値の物質を接続すると流れる電流は小さくなります。
高抵抗地絡とは?
それでは今回の事故は電気的にはどのような現象が起こっていたのでしょうか?
キーワードは『高抵抗地絡』です。
先ほど説明したように、き電線がビームと接触すると、き電線⇒ビーム⇒コンクリート柱⇒大地⇒レールという経路で予期せぬ電流が流れてしまいます。
ビームとレールは金属製であり電気を通しやすい、つまり抵抗が非常に低い物質です。
また、大地も実は電気を流しやすい良導体であることが知られています。
しかし一方で、コンクリートは電気を流しにくい物質です。
実際のコンクリート柱には、強度を確保するためにコンクリート内部に金属製の鉄筋が通してあります。
したがって、柱に外部から電圧をかけると、電流はコンクリートを通過して電気の通りやすい鉄筋を流れ、最後にまたコンクリートを通過して外に出て行きます。
コンクリートへの出入りの際の抵抗は非常に高いのですが、鉄筋の抵抗は低いため、コンクリート柱としてのトータルの抵抗値は少し高めになります。
したがって今回の場合、経路内にコンクリート柱という高抵抗の物質が存在するため、経路全体の抵抗値は高抵抗となります。
このように電圧がかかっている部分(き電線)と大地につながっている部分(コンクリート柱・ビーム)が接触してしまう事故のことを地絡事故と呼び、地絡事故の中でも地絡経路が高抵抗となる場合を高抵抗地絡と呼びます。
続く。
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