キーワード:引留区間、抑制抵抗、機械的区分装置、電気的区分装置


電車線を区分する必要性

今回はエアセクションをはじめとする『区分装置』について説明します。
エアセクションについては、以前、京浜東北線桜木町駅で架線の断線事故が発生した際に詳しく説明しましたが、実はエアセクション以外にも様々な区分装置があるので、今回の記事ではそれらを紹介します。
以前も書いたので繰り返しになってしまいますが、そもそもエアセクションを始めとする区分装置の存在意義についてまずはお話しましょう。 

トロリ線やちょう架線は温度の変化によって伸び縮みするので、自動張力調整装置によって一定の張力に保つことで常にトロリ線の平坦性をキープしているということは以前お話した通りです。
しかし線路の始点から終点までの何十km、何百kmもの長距離を1本のトロリ線で張ってしまうと、暑いときと寒いときとで実に10m~100mも伸縮することになってしまいます。
寒暖差でトロリ線の長さが100mも変わると、下の絵のように引張りしろも同じだけ必要になるので、超大型の装置になってしまいます。

 
そこでちょう架線やトロリ線を適当な長さに区切って区分してやる必要があるのです。
この区切られた端から端までの区間のことを引留区間と呼びます。



抑制抵抗とは?

実際には、自動張力調整装置を両端に設置する場合、引留区間は最大でも1,600m程度の長さまでと決められています。
当然、片側のみ自動張力調整装置を設置する場合は、その半分の800m程度となります。
 
これは先ほども述べたとおり、自動張力調整装置のサイズを考慮して決められているのですが、自動張力調整装置をもっと大きくすれば2,000mくらいまでいけるのかというと、実はそういうわけにもいきません。
トロリ線は、以前説明したように、曲線引装置振止装置一定間隔ごとに支持されているのですが、この支持点はトロリ線の伸び縮みに対応できるように可動式になっています。

 
しかし当然ですが、可動部分の摩擦が完全にゼロであるはずはないので、多少の抵抗力が発生してしまいます。
これを抑制抵抗』とよびます。
トロリ線1本あたりの長さが伸びるほど支持点の数は増えるので、抑制抵抗は支持点の数だけ積み重なって、やがて無視できなくなってしまい、トロリ線は平坦性を保てなくなってしまいます。

 
つまり引留区間の最大長さは、自動張力調整装置のサイズだけでなく、抑制抵抗の影響を受けてもトロリ線の平坦性を保てる範囲で定められているのです。


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電気的区分装置と機械的区分装置

ここで以前のエアセクションに関する説明を見てもらうと、変電所付近で区分された電車線は、左右でそれぞれ異なる電源に繋がっていました。

 
しかしそのせいで電位差が生じてアークが発生してしまい、最悪の場合、桜木町の事故のようにトロリ線が断線してしまうことがあるわけですよね。
だったら同じ電源に繋げてやれば電位差が生じないから安全じゃないか、と思う方もいるかと思います。
まさにその通りで、このように機械的には区切られているが電気的には繋がっている区分装置のことを『機械的区分装置』と呼びます。
逆に変電所付近のように、機械的にも電気的にも区切られている区分装置のことを『電気的区分装置』と呼びます。
 
それでは機械的区分装置電気的区分装置との使い分けはどのようになっているのでしょうか。
先ほども述べたように、どうせ電車線を区切らなければならないのであれば、すべての区分装置をアークが発生しない機械的区分装置にすれば良いと思うかもしれません。
しかしそうしてしまうと、その路線の始点から終点までずっと電気的に繋がっていることになってしまいます。
そうすると、例えば近距離でのトロリ線の点検や張り替え作業をする際には、安全のために電気を止めた状態で実施するのですが、その路線内の全ての電車が走り終わったことを確認してからでないと停電できないことになり、作業時間が非常に限られしまいます。
しかし、電気的区分装置が間に挟まっていれば、電気的区分装置から次の電気的区分装置までの区間を部分的に停電させることが可能になり、終電がその区間を抜けたことを確認しさえすれば停電できるので、十分な作業時間を確保できるということになります。


 
他にもまさに京浜東北線桜木町駅の断線事故のように、トロリ線が切れてしまうことによってその場所を電車が物理的に走行できなくなった場合、路線内(この場合は京浜東北線)がすべて電気的に繋がっていると、復旧が終わるまでの間は始点から終点まで全ての電車が走れなくなってしまいます。
つまり桜木町から遠く離れた大宮とか東京でも電車が走れなくなってしまい、首都圏輸送の大混乱を招いてしまいます。
しかし電気的区分装置で区分していれば、トロリ線が切れた区間だけ停電して復旧することができます。
その他の区間は停電させる必要はないため、通常通りに電車を走らせることができて、輸送の混乱を最小限に抑えることが可能となるのです。
 
このように、電気的に区分されていることにはメンテナンス上や営業上の大きなメリットがあるのです。

 
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