キーワード:き電、直流、交流、直流き電方式、交流き電方式、アーク現象、整流器


そもそも『き電』とは?

これまでの電車線設備の説明では、使用している電気が交流なのか直流なのかということにはあえて触れずに進めてきました。
それはこれまで説明してきた設備が直流き電方式だろうが交流き電方式だろうが、ほとんど変わらないものばかりだったためです。
しかし今後説明する設備は、直流き電方式交流き電方式大きく異なってくるものばかりなので、この辺りで一度説明しておこうと思います。

さらっと直流き電方式交流き電方式と述べましたが、そもそもき電とはどういう意味でしょうか。
漢字では『饋電』と書きますが、『饋』というのは「食べ物を与える」のような意味を持ちます。
つまり、電車に対して電気という「エサを与える」ことを『き電』と言うのです。

そして直流、交流というのは電気の種類ですので、いわばエサの種類です。
直流しか食べない電車もいれば交流しか食べない電車もいて、さらには直流も交流も好き嫌いせず食べる電車もいます。
発電所で作られたエサの材料である交流の電気を、電車の好き嫌いに合わせて直流交流などの食べやすいエサの形に料理するのが『変電所』であり、そのエサを電車まで届けているのが『き電線』というわけです。

ここで電気の初学者のために、直流と交流の超基本的な部分について説明しておきましょう。
直流とは文字通り真っ直ぐ流れる電気のことを表し、基本的に一方通行です。
一方で交流周期的に行ったり来たりする電気のことを表し、周期的にゼロになる点が存在します。


詳細な説明は別途電験の解説記事で行っているのでそちらを参照してください。


直流き電方式はどこで採用されている?

発電所では発電機を回転させて電気を作っていて、周期的な回転運動から電気エネルギーを取り出しているので、交流の電気になります。
そうであれば「なぜ交流のまま使用しないのか」と疑問を持つかも知れませんが、当然、交流をわざわざ直流にして使用することには理由があります。

直流き電方式は主に首都圏のように運転頻度の高い線区や、地下鉄などに採用されています。 

以前説明したように、動植物によって短絡事故が発生すると、き電回路には大きな電流が流れてしまい危険なので、それを検知して遮断する必要があります。 


しかし直流だとその事故電流の遮断が困難であるというデメリットがあります。
なぜならば先ほど説明した通り直流電流は一方通行なので、急に遮断しようとしても電流は流れ続けようとします。
そしてその勢いがあまりにも強いと、つまり電圧があまりにも高いと、空気中でもお構いなしに電流が流れてしまう、いわゆるアーク現象が発生するからです。


そこで事故時の電流が極力大きくならないように、電圧は1,500V(ボルト)と低めに抑えられています。 

一方、交流は比較的、事故電流の遮断が容易であるというメリットがあります。
なぜならば先ほど説明した通り、周期的に電流がゼロになる点が存在するため、そこから再度電流を流そうとしても回路が断たれているため、流れることができないからです。
そのため電圧を20,000Vと高めにすることが可能なのです。


直流き電方式の方が電圧が低いということは、その分がいしなどの絶縁設備が少なくて済むため、電車線設備が占有する面積が狭くて済みます。
したがって地下鉄のトンネルのように断面積が限られているような場合に、非常に有効なき電方式です。

また、電車のモータとして以前は直流モータが、現在は交流モータ採用されていますが、直流き電方式直流モータを駆動する場合はそのまま使用可能で、交流モータを駆動する場合は直流から交流へ1回変換することで駆動可能です。 
一方、交流き電方式直流モータを駆動する場合は交流から直流へと1回の変換が必要で、交流モータを駆動する場合は交流から直流へ、そしてまた直流から交流へと2回も変換する必要があります。 



すなわち、いずれのモータの電車であっても、直流き電方式の方が電気の変換過程が少なくて済むため、電車に搭載する変換装置の規模も小さくて済みます。
つまり直流き電方式の方が車両の製造コストが少なくて済むということです。
したがって首都圏のように運転頻度の高い線区では、車両の数が多いため非常に有効なき電方式です。

       
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交流き電方式はどこで採用されている?       

逆に地方のように列車本数が少なく距離の長いような線区では、交流き電方式採用されています。

交流では電圧を高くすることができるのは先ほど述べましたが、電圧が高くなると電流は小さくて済むため、電圧降下が小さくなります。
電圧降下とは文字通り電圧が下がることですが、その大きさは電流の大きさに比例するので、電流が小さければ小さいほど電圧降下も小さくなるのです。

電車はある電圧の範囲内で正常な動作をするように作られているため、電圧が高すぎても低すぎても正常に動作しません。
変電所から離れるにつれて電圧降下によって電圧が下がってしまうので、電車が動作する最低限の電圧を維持できるような位置に変電所を配置しています。

ここで交流き電方式の話に戻ると、電圧が高いため電圧降下が小さいことは先ほど説明した通りです。
したがって直流き電方式と比較すると、変電所の間隔を非常に長くすることができるため、変電所の数を少なくすることが可能です。

さらに発電所から送られてくる電気は交流なので、これを変電所で適切な形に変換する際に、直流き電方式の場合は交流から直流に変換する装置(整流器)が必要になりますが、交流き電方式の場合は整流器が不要になります。
つまり直流き電方式に比べて変電所そのものの設備コストも少なくて済むというメリットがあります。

以上の理由から、交流き電方式は、列車本数が少なく距離の長い線区非常に有効なのです。

                    

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