キーワード:誘導起電力、ファラデーの法則、磁束、巻数、三相交流、三相同期発電機
難易度:★★★☆☆(三種レベル)
誘導起電力の大きさ
前回の記事では、同期発電機における周波数はどのように決まるのかについて解説しました。
発電機にとって周波数と同じくらい重要な要素は、やはりどのくらいの起電力が発生するかですよね。
ということで今回は同期発電機が発生させる誘導起電力について考えてみます。
以前説明したように、ループの端部にはそのループを貫く磁束の時間変化に比例した大きさの誘導起電力が発生するという、ファラデーの法則というものがあります。
そしてこれを式にすると、
e = N×dΦ/dt
となります。
ここでeは誘導起電力[V]、Nはループの巻数、Φはループを貫く磁束[T]です。
(dΦ/dtはΦを時間t[s]で微分したものですが、微分については解説記事を参照のこと。)
(この記事内のイラストでは、簡単のためループの巻数は1巻にしていますが、実際の同期発電機では何重にも巻いています。)
ここで言うループを貫く磁束とは、厳密にはループを貫く磁束のループ面に対する垂直の成分を言います。
つまり下の図のようにループ面を斜めに磁束が貫いている場合、誘導起電力に影響する成分は青い矢印のようになります。
また前回説明したように、磁束は回転方向に対して正弦波の形をしていると仮定できるので、その最大値をΦm[T]、周波数をf[Hz]とすると、ループ面に対する磁束の垂直成分Φは、
Φ = Φm sin(2πft)
と表されます。
これをファラデーの法則の式に代入すれば、
e = N×dΦ/dt = 2πfΦmN cos(2πft)
となります。
したがって誘導起電力の大きさは、2πfΦmN [V]の実効値となるので√2で割ることによって4.44fΦmN [V]となります。
誘導起電力の位相と界磁の向き
下の図のようにループ面に対して磁石が水平になった状態をt = 0と考えます。
このときのループを貫く磁束のループ面に対する垂直成分は、
Φ = Φm sin(2πft)
にt = 0を代入しても分かるようにゼロとなります。
そのときの誘導起電力の大きさは、
e = 2πfΦmN cos(2πft)
にt = 0を代入すると最大値2πfΦmN
となることが分かります。
つまりループ面に対して界磁が水平になったときに、誘導起電力が最大になることが言えます。
言い換えると、界磁がループを指しているときに、ループに発生する誘導起電力が最大になるという位置関係が成り立ちます。
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物理現象として考えてみる
数式だけ追っても面白くないので、このことを物理現象として考えましょう。
下図(a)のように、磁石がループ面に対して寝ているときは、磁束は当然ループ面を貫かないのでゼロとなります。
しかし下図(b)のように、磁石が反時計回りに少し回転してN極が少し上向きになったとき、ループ面の下から上へと少しだけ磁束が貫きます。
つまりループ面に対する磁束の垂直成分が少し現れるということです。
そうするとファラデーの法則から、増えた磁束を打ち消すために下向きの磁束を発生させるような電流を流そうとして、下図(c)のように誘導起電力が発生します。
つまり、界磁が電機子(ループ)を指しているときに、誘導起電力は最大値となり、その向きはN極が指している側が正になるということです。
これは負荷の性質によらず、界磁の位置と発生する誘導起電力の位相は常に対応しているということを意味しています。
ここで1つ注意しなくてはならないのが、回転の方向です。
今回は界磁が反時計回りに回ってる状況を考えたので、N極が指す側の電機子が正になりました。
しかし逆に時計回りだった場合、ここまでの議論と同様に考えれば、S極が指す側の電機子が正となることが分かるでしょう。
つまり議論の結果を暗記するよりも、議論の過程で使った理論(ここではファラデーの法則)を覚えることがいかに重要か分かると思います。
三相同期発電機
以前説明したとおり、実際の電力系統は三相交流回路が採用されていますので、同期発電機も三相交流電圧を発生できるように工夫する必要があります。
そこで先ほど述べたような『界磁のN極が指している電機子に、最大の誘導起電力が発生する』という性質に着目します。
三相交流とは、下の図のように位相が120°ずつずれている3つの単相交流のことを言います。
したがって当然ですが、誘導起電力の最大値も120°おきにやってくるので、下の図のようにループを3つ用意して120°ずつずらして配置すれば、1つの界磁を回転させることでそれぞれのループの端部から120°ずつ位相のずれた誘導起電力が得られます。
まとめ
①誘導起電力の大きさ:
4.44fΦmN [V]
②誘導起電力の位相:
界磁の向きに対応
・反時計回り ⇒ N極の指す電機子に最大電圧発生
・時計回り ⇒ S極の指す電機子に最大電圧発生
③三相同期発電機:
3つのループを120°ずつずらして配置
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コメント
コメント一覧 (2)
Φ = Φm sin(2πft)
にt = 0を代入しても分かるようにゼロとなります。
そのときの誘導起電力の大きさは、
e = 2πfΦmN cos(2πft)
にt = 0を代入すると最大値2πfΦmN となることが分かります。
つまりループ面に対して界磁が水平になったときに、誘導起電力が最大になることが言えます。
言い換えると、界磁がループを指しているときに、ループに発生する誘導起電力が最大になるという位置関係が成り立ちます。
急にsinがconになった理由はなんでですか?
冒頭に書いたように、
e = N×dΦ/dt
とΦを微分してeを求めるからです。