分野:電気回路

交流理論、本当に理解してますか??       

最後の更新が2017年3月4日なので、ちょうど2年ぶりの更新となります。
本業・副業ともに落ち着いてきたので、ぼちぼちブログを再開しようと思います。

記念すべき再開一発目は、やはり電気の初学者がつまずきやすい内容にしようと思い、フェーザ表示について書くことにしました。

物理を履修している高校生や大学の電気工学科に進んだ大学1年生は、直流回路は余裕だったけど、交流回路に入った途端、急にワケが分からなくなった、という方、結構いるのではないでしょうか。
しかも、ワケは分からないけど、なんとなく言われるがままに複素数を使って計算すれば、問題は解けてマルをもらえてしまう。
そうなると、「正弦波交流を考えていたはずなのになんで複素数が出てくるの?」などという疑問も持たなくなり、気付いたらなんとなくあいまいな理解のまま卒業しちゃった、という方、少なくはないのではないでしょうか。

「図星だ」と思った方は、ぜひ今回の記事を最後まで読んでみてください。
きっと頭の中がすっきりと整理されると思います。
           
               
フェーザ表示の基礎のきそ       

まず、正弦波交流電圧は、一般にe = Em sinωt で表されますね。
これは下の図のように、半径Emの円の上を、ある点が反時計回りに角速度ωで移動しているときの、その点の高さの変化を時間の関数として表したものになります。
図1

しかし、正弦波交流を三角関数のまま扱うと、計算が非常に複雑になります。
三角関数同士の足し算やかけ算をするだけでも骨が折れるのは、容易に想像できますよね。
(和積の公式とか、積和の公式とかを思い出せば分かると思います。)

そこで、まずは上の図を複素数平面だと考えてみます。
図2

そうすれば、円上の点は、
図3

というように複素数で表すことができます。
(この変形には、オイラーの公式exp(jωt) = cosωt + j sinωtを用いています。)

正弦波交流は円上の点の高さを表すので、虚部が正弦波交流を表していることになります。
つまり、
図4

のように、複素数の虚部を抜き出せば、正弦波交流の形に戻すことができます。

複素数は三角関数よりも四則演算が簡単なので、三角関数で表される正弦波を、複素数に変換して計算して、最後にその虚部を抜き出して正弦波交流の形に直せば交流回路の計算も容易になる予感がしますね。


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もっと便利なかたちにしよう!

交流回路では、電流や電圧の位相が、基準となる電圧や電流に対して、遅れたり進んだりする場合があります。
図5


これを考慮すると、正弦波交流は一般的に、e = Em sin(ωt+φ)というように表されます。
これをまた複素数の形で表すと、
図6

というようになり、ωtの部分とφの部分を分けることができます。
このように、正弦波交流を複素数で表すと、その位相差などに関わらず、exp(jωt)が共通して出てきます。

共通しているものは邪魔
なので、思い切って取り除いてしまいましょう!

つまり、E = Em exp(jθ)のように表して、正弦波に戻すときには、exp(jωt)をかけた上で虚数のみ取り出せば良いのです!
図7

これを複素数平面上で考えると、exp(jωt)を取っ払うことによって、全ての点が等しくωという角速度で反時計回りに目まぐるしく回転していたのを、ピタっと静止させるようなイメージになります。

図8
                                                     

もっともっと便利な形にしよう!!

これだけでも十分に計算はラクになっていますが、もっとラクにする方法を考えましょう。

交流回路を考えるにあたって、EmImなどの最大値ではなく、それらを√2で割った実効値というものがよく使われます。
何のために実効値を用いて、どのように便利なのか、ということは、次回解説しますので、ここではそういうものだと割り切ってください。
つまり、最大値がEmの場合、実効値はE = Em/√2となります。


そして、正弦波交流e = Em sin(ωt+φ)を、これまでの内容を踏まえて複素数で表すと、
図9

と表すことができます。
このように、邪魔な√2やexp(jωt)を取り除いて実効値と位相差だけを用いて複素数として表す方法を、フェーザ表示というのです。
                        
そして、正弦波交流をフェーザ表示に変換して、回路計算して、最後に取り除いていた√2やexp(jωt)を掛け合わせたものの虚部だけを取り出せば、それが求める正弦波交流の関数となるのです!
図10
                                                

まとめ

交流電気回路において、正弦波交流を三角関数のまま扱うと計算が大変なので、これをなんとか扱いやすい形(複素数)に変換して計算しよう、というモチベーションから生まれた、大変便利な方法がフェーザ表示です。

もともとは時間の関数だった正弦波交流ですが、同じ回路内の正弦波交流は角速度が全て等しい、という理由で、時間に関する項であるexp(jωt)を取っ払ってぐるぐる回転する複素数平面上の点の動きを止めてしまいました。
さらに電力の計算も直流と同様に扱えると便利だね(詳細は次回)、ということで、実効値を用いることにしました。
そうして非常にスリム化された複素数がフェーザ表示なのです!

しかし、もちろん、そのままでは我々の都合で勝手に扱いやすい形にしただけ物理的な意味を持ちません
なので、一通り計算を終えたら、最後には取っ払った√2やexp(jωt)を復活させてあげて、その複素数の虚部を取り出せば三角関数を用いた正弦波交流の形に戻してあげることができるのです!

このように、面倒なことを簡単にしようと、先人が考えに考えを重ねた末に生み出された、非常に素晴らしい発明「フェーザ表示」なのです。

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